2019年度一橋大学法科大学院入試選抜(一橋ロースクール) 民事訴訟法解答解説(その1:概要・本件問題文の読み方・当事者能力)

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きちんと解説した結果、長くなってしまいました。

項目ごとに回数を分割します

(理由:サンプル等で聞いた解説講義では、どうも法科大学院受験生に教えるには解説が短く、また解説せず再現答案を読んでいる時間が長いと思うんですよね・・・また再現ゆえに間違いが放置されるのもある・・・。そこで当初は全くの純粋未修者であった私を聞き手と想定し、解答の方法・問題文の読み方・判例との違いないし共通点を意識して書きました。・・・ら、ここまで長くなってしまいました・・・)

 

現時点で法科大学院側から出題の趣旨がでていませんが、思考過程や知識については大丈夫かと思います。出題の趣旨が出たら再度精査します。

以下にも記載の通り、当事者能力の点は省略できると思いますが、当事者適格検討の当然の前提となるため(∵一般的資格を満たして、初めて具体的資格を検討できる)、記載してあります。

出題の趣旨が出たら、場合によっては「本問では省略可能である・求められていない」と書かれるかもしれませんが(そのため記載省略パターンも本記事にあり)、正確な理解のために記載いたします。

*各項目ごとに説明したあと、最終的に筆者参考解答を示す予定です。もっとも、各項目解答のコピペになると思いますが。 

 

◆本問解答の概要・道筋◆


問題となるのは、以下の通りです。

◆解答要約・答案構成◆

(1)当事者能力(ただし当事者適格検討の前提として)*今回はココを主に解説*

      ↓

(2)当事者適格(権利能力がないのだから実体法上の権利は団体自身に帰属し得ない∵法人格なき社団の登記能力は認められていない{判例不動産登記法25条および不動産登記令20条2号}。

では、Aでなく団体Xが代表者個人名義への登記を求めるための理論構成は何か)

     ↓

(3)判決効の拡張(主観的範囲:構成員全員に対しても及ぶか)

 これを書けば良いことになります。

 

(雑談:(2)について。今まで権利能力なき社団を原告とする移転登記請求権(当事者適格)についてはいわゆる昭和47年判例がありましたが、元々の学説上の対立及び平成26年判例出現により、その解釈を巡って喧々諤々な対立があります。以下、「一般的な受験生」の目線で構成します。学者間でも凄まじく争っており、その方々と比べて圧倒的素人である私なぞ、そんな泥沼には避けて通ります)

  

 

 ◆本問題の読み方◆

では具体的に問題文を検討してみましょう。

問題文には誘導が示されています。

①団体の不動産については代表者の名義にすることが取り決められていた(2行目)

②代表者は、一切の裁判上の権利または裁判外の行為をする権限を有する(3行目)

③XはYに対し・・・売買契約に基づきAへの所有権移転登記手続きを求める(7行目)

 

つまり問題文にある原告の主張を整理すると、

①団体Xに登記名義を移転させることは求めていない。そしてそもそも実体法上の登記請求権は代表者Aに帰属している

②しかも代表者Aが訴訟追行権を有している。

③これらより規約に基づき代表者A個人への所有権移転登記をしたいが、

それをXがやる

この3つです。

 

はい、いやらしいですね。

今民訴法学者や通説と判例の対立、調査官解説の解釈を巡っても激しいバトルが繰り広げられている、あの判例です(雑談参照)。

 

そう、題材は最一小判平成26年 2 月27日民集68巻 2 号192頁(以下、「平成26年判決」百選10番<新版初収録>です。

昭和47年判例や論パ・問題集に昔からある、代表者Aが訴訟をすることの検討ではないですよ、きっとAの当事者適格として間違えた人もいると思います

(・・・ええ、本番解答の途中に気づきましたもちろん私です)。

 

これらを纏めると、本問ではまず

(2)実体法上代表者に帰属する登記請求権かつ訴訟法上も代表者が行使するものを、権利能力なき社団Xが代わって行使する。そんなのできるのか?

その場合の当事者適格を認める構成の検討が求められています

そして

(3)Xの当事者適格が認められるとして、じゃあ判決の効果は?

訴訟当事者のXは当事者だからわかる。けど、他の構成員には及ばないの?それでよいのか

  

以上を前提として、問題文では

Q1.Xの当事者適格(原告適格

Q2.判決効の主観的範囲

を論ずることが問題文で求められています。

 

 *本件については
「当事者適格が認められるか」が本題であり、仮に時間がないなら
「本問では当事者能力は問われていない。しかし当事者適格を判断する前提であり、以下では【当事者能力が認められることを前提として】当事者適格について検討する」
等として、最悪当事者能力の理解があやふやなら、理解しているハッタリを示し、触れずに逃げることも出来ました。

恐らく出題者は、
「予備校の論パの最初のほうにある項目だし、どうせ同じような項目を書いてくるから、それなら理解していないであろう当事者適格を中心に出そう。理解があやふやなら、当事者適格とごっちゃにしてそこで当事者能力の論述だけを書いてくる人がいるだろう」
と思ったのかもしれません。

 

◆知識事項◆

 既習者入試を受けようとする方なら、こんな文言を見たことがあるのではないでしょうか?

◆要約(コア要素のみまとめ)◆
権利能力なき社団に当事者能力が認められるためには、法人格がなくとも「社団」性、すなわち社会的実在として存する法人と同視できるだけの事情を要する。すなわち、対内的独立性・対外的独立性・内部組織性(+強制執行の実効性確保という見地から財産的独立性【伊藤眞説等争いがあり】)などを備えていることを指す。

 

なんか難しい言葉が羅列されてますよね。これ、言葉だけでわかりますか?
論証以外に理解していれば問題ありません。当事者能力欄の解答例まで飛ばしてください(※後に全てを纏めた解答例を記載予定)


以下では予備校等で暗記としてさらっと終わってしまう権利能力なき社団の当事者能力】という事項について、
暗記で乗り越えてきた人を対象に、筆者が分かりやすく解説しています。

注:筆者は非法学部出身でもあり、(司法試験に出願しているが)教授等からゼミ等でインテンシブな教育を受ける機会がありませんでした。その体験を活かし、レベルとしては今の筆者が、法律知識を全く有していない過去の自分に対して教える感じで記載しております。学部生には解説レベルが低すぎて物足りないかもしれません。
繰り返しますが暗記ではよくわからない人や、予備校講義で飛ばされるので理解出来ていないと思う方には参考になればと思います。
なお、2~3年前の司法試験民事訴訟法にも同じ「分野」は出てますので理解しておくと良いと思います。



◆(1)当事者能力項目の検討・解説◆

 Q:そもそも問題となっている【①権利能力なき②社団】とはなんですか?

 

それを理解するにはきちんとその用語を分解して考えてみるとわかりやすいです。

 

①「権利能力」がないって何でしょう?

「権利能力なき」というのは権利能力がないこと、すなわち「実体法上の権利義務の帰属主体となれないこと」を指します。「実体法上の権利義務の帰属主体になれない」とは、その団体そのものが契約の当事者になれないこととなります。

そして、実体法上の権利能力は民事訴訟法上の「当事者能力」と、【おおよそ】対応するものです(根拠は民事訴訟法28条の原則規定を参照してください)。


Q「うーん・・・けど、株式会社や一般社団法人等は権利能力が認められるよね。28条では権利能力と当事者能力と同様とするとは書いてあるけど、権利能力なき社団だってそれらと近似しているものがあるよ。法人格がないだけで、全て一律に当事者能力を認めないのはおかしいのでは・・・」

そうです。
私が【おおよそ】と記載したのには訳があり、この権利能力なき社団については例外があります。また28条を見ても例外があることがわかりますよね。

※学説などでは無制限に認めるものもありますが、以下は判例・条文に基づきます。

民事訴訟法上は柔軟に対応するのです。
まずは民事訴訟法29条を見てください。

 

29条(法人でない社団の当事者能力)
法人でない社団又は財団で代表者又は管理者の定めがあるものは、その名において訴え、又は訴えられることができる

 

 

・・・条文上、「法人でない社団、かつ、代表者の定めがあるもの」と書いてある。じゃあ、これを満たせば当事者能力が認められる!?

→そこでこの条文の理解が大変深く関わってきます。


権利能力がないなら当事者能力が認められない。

これが28条の通り原理原則です。

 

ですが、

条文文言にもあるように民事訴訟法は28条の原則に対する例外を定めました。それが29条です。


29条は訴訟政策的に、すなわち例外的に、権利能力がないけれども、紛争解決の便宜から権利能力なき(法人でない)社団についても、民事訴訟上の当事者能力を認めたものです。

あくまでも例外なんです。そもそも法人格はないんですから。

法人格がないけれども、訴訟上の便宜・必要性から権利能力なき社団にも当事者能力を許容した。

何でもかんでもみんな認めるのではありません。

そこで範囲を絞るのが②社団(財団記載略)という条文の文言です。

 

社団とは一般的に、一定の目的によって結集した人の集団を指します。
そして法人とは、法人格を有する+社団のことです。

つまり、法人格のない社団といえるためには、法人格を得ていないが(商業登記等)、最低限法人と同視できる程度の実在(=社団性)を求めたんです

 

(次から説明する規範については最判昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁、百選掲載判例を参照)

では、

Q:法人格はないけど法人等と同視できる程度の実態(社団性)ってなんですか?


法人ってどんなのを想像しますか?
その例として一番身近にあるものに、株式会社が挙げられますね。

 

(株式)会社ってなんですか?
会社法25条に始まる規定がある会社で、本文に関係する限りで端的に示すと、
(募集)株式を発行して資金を集め、その資本を元に営利活動を行う法人格を有する団体です。

 

それでは
「会社ってなんですか?」

と聞かれて、ふと思い出す一般的なイメージは、

 

役員がいて、役員以外にもそこで勤務する人がいる。たくさんの人が入社する一方で、定年退職など、内部でその構成員(社畜など(社員という言葉を使うと法律上わかり辛いので・・・)も常に変動する。
人が変わり役員が変わる。それでも倒産等しない限り会社自体は継続している(対内的独立性

 

(例外や修正法理もあるけど)、基本的に会社は経営の独立性が認められていて、株主にあーだこーだ言われても、それに左右されずに意思決定・運営されている(対外的独立性)。

 

会社内部でも、取締役会など色々な組織があり、会社が事業等に関する意思決定をするためにはどのようにすれば良いのか、その組織構造が確立されている(内部組織性

等々、組織としての実体を有しており、その内部では様々な制度が確立されています。
(※財産的独立性については伊藤説等争いがあり、省略)

これらを備えた集合体(+商業登記。定款などの説明は省略)こそ法人格ある社団であり、上の例で言えば株式会社なんです。

 

だからこそ
法人格がなく(=権利能力がなく)、29条で例外として認めるようにするからには、最低でも法人格がないことは許容するとしても、「社団」としての実態はあって欲しいよね(要件)


ということで、上記の論証が出てくるわけです(最判昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁、百選掲載判例

 

◆まとめ(本件論証が出てくる過程・思考方法)◆

権利能力ないって言っても法人格を取得してないだけ。なのに一律で認めないの…?!。

え?法人格がなくても民訴法の「特別の定め」に該当すれば認めてくれる!?(28条前段)。
うちは①法人格がない団体だから「法人でない」だよ。法人でない場合にも当事者能力が認められるって書いてあるじゃん(29条)

・・・そっか、原則(28条)の例外(29条)として特別に認めてるんだ。しかも②「社団等」(財団は本件と無関係のため「等」と表記)って書いてあるし…。

例外だから無制限に認められるわけでなく、きちんとした要件に該当することが必要だよな。つまり「社団等」と言えるためには、法人格がないこと以外は、権利能力を有する法人格のある「社団」と同視できなきゃダメなんだ(=対外的独立性等の要件)

それが認められるなら当事者能力を認めてくれるってことね。
うちは株式会社等と同視できる事情や組織があるよ。なぜなら・・・(あてはめ)。
だから社団という要件を満たすよね。

法人でないけど社団性もあり、代表者又は管理者も置いているから、当事者能力が認められるね。

 

 

◆本問を当事者能力を触れて解答するとこうなる◆

(1)当事者能力について

(ア)権利能力なき社団に当事者能力が認められるためには、法人格がなくても社会的実在として存する法人と同視できる事情を要する。すなわち社団性、具体的には対内的独立性・対外的独立性・内部組織性(+強制執行の実効性確保という見地から財産的独立性【伊藤眞説等争いがあり】)などを備えていることを要する。


(イ)本問ではXは権利能力なき社団との記載があるが、団体の性質及び個別具体的な事情については問題文に明記されていない。
しかし、団体の当事者適格を検討する上で、その前提として団体に民事訴訟法上の当事者となりうる一般的資格、すなわち当事者能力を要する。そこで団体が上記要件を満たし当事者能力が認められることを前提として、以下当事者適格の検討をする。
(認められない場合については、当事者適格が認められない場合と同じく、後の当事者適格の項目で一緒に説明∵当事者能力認められないとしたら、当事者適格すなわち個別具体的な資格の検討段階まで辿り着かなくなってしまう)

 

次回(そのうち)
喧々諤々な、メインの当事者適格の項目に続きます。